パンダ


 昼休みに、オフィスのテレビをつけるといやなニュースが流れていた。
『人里に現れ人間を襲ったクマを射殺』
 俺は緑茶をすすりながらため息をついた。
 まったく、危険だからとはいえ簡単に殺処分というのはいかがなものか。野生動物を保護せよと声高に叫んでも、実際にはこの始末だ。結局人間の都合で決められているのにすぎない。まったく勝手なものだ。麻酔銃で捕獲し、自然に返すなどの手段がありそうなものだというのに……。
 不快な気分になり、俺はテレビのスイッチを切った。


 仕事が終わり、疲れた身体を引きずって帰途についた俺の前に、路地から巨大な影が立ちふさがった。
 大柄な男が突然飛び出してきたのかと思ったが、それにしてもあまりにも巨体すぎる。
 街灯の明かりを頼りに眼をこらすと、俺は仰天した。
 それはパンダだった。中国にいて笹を食うあのパンダだ。
 俺があぜんとしていると、パンダも驚いたのだろう。鋭い爪をむき出しにすると、俺の頭上に振り下ろしてきた。わけがわからないまま、俺は本能的に一撃を避けると、あとじさりながら逃げ始めた。
 しかし相手はパンダである。一応クマである。クマは時速200kmで走ると聞いたことを思い出す。とうてい逃げられるはずがない。
 パンダは前足を地に着くと、本格的に俺を追撃し始めた。死が頭をよぎった瞬間だった。俺とパンダを複数の人影が取り囲んだ。
 ライフルを構え、重厚な装備に身を包んだ機動隊である。助かった。俺は必死で機動隊員に手を伸ばし助けを求めた。機動隊員が、ライフルの照準を定める。
 バン!!
 にぶい音が響き、気が付くと俺は地面に仰向けに倒れていた。左胸から血が流れているのがわかる。な、何を……。
 力を振り絞り、抗議の声をあげようとする俺のまわりに、隊員たちがかけよってきた。遠くなる意識の底で、隊員達の声が聞こえた。
「大丈夫か!?」
「大丈夫です、パンダは無事です」


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